当院産科では、ハイリスク妊娠、多胎や合併症妊娠など各専門医が連携し、母体と赤ちゃんの健康をサポートしています。多様な診療科が併設されているという大学病院の特色を生かし、妊娠前から持病がある方や妊娠中に病気を発症した方、また妊娠中の特有の疾患を発症した方、産後の出血や感染症の対応など様々な患者さんの管理を行っています。
地域医療機関との連携体制も整えており、紹介・転院にも対応しています。
当院で行っている診療内容についてご紹介します。
妊娠中の疾患について
早産
妊娠37週より前に赤ちゃんが生まれることを「早産」といいます。日本ではおよそ20人に1人の割合で早産が起こっています。赤ちゃんはお母さんのおなかの中で成長しながら、呼吸や体温を保つ力を身につけていきます。そのため、早い時期に生まれると体がまだ十分に育っておらず、特別なケアが必要になることがあります。特に妊娠週数が早い場合は、新生児集中治療室(NICU)での治療やサポートが行われます。
早産になる理由はひとつではなく、感染や多胎妊娠(双子など)、妊娠高血圧症候群、羊水の異常、母体の合併症など、さまざまな要因が関与します。ただし、原因がはっきりしないことも少なくありません。早産期に生まれた赤ちゃんを早産児と呼び、早産児は呼吸障害や低血糖、新生児黄疸等の合併症が挙げられ、赤ちゃんが安全に育っていくことができるように治療を行っています。
当院では妊娠32週以降、推定体重1300g以上の赤ちゃんの受け入れが可能であり、妊娠中から出産後まで産科医と小児科医(新生児科)が協力して、できる限り赤ちゃんがおなかの中で過ごせるようにサポートしています。もし早産になった場合でもNICUを中心とした体制で赤ちゃんの成長をしっかりと見守ります。
胎児発育不全
胎児発育不全とは、おなかの赤ちゃんが標準より小さめに育っている状態をいいます。赤ちゃんの大きさには個人差があり、すべてが病気というわけではありませんが、成長がゆっくりであることから、より丁寧に見守る必要がある場合があります。
原因はひとつではなく、胎盤や臍帯の異常、妊娠高血圧症候群、母体の合併症(高血圧・腎臓病・糖尿病など)、喫煙や栄養状態、ウイルス感染症などさまざまです。しかし、はっきりと原因がわからないことも少なくありません。
胎児発育不全の赤ちゃんは、妊娠中に成長が止まったり、低酸素状態になったりすることがあるため、注意深い観察と管理が必要です。超音波検査や胎児心拍モニタリングを定期的に行い、赤ちゃんの成長や元気さを確認しています。必要に応じて早めの分娩を行い、新生児集中治療室(NICU)での管理につなげています。
胎児疾患 ―胎児精査について―
妊婦健診の中で、おなかの赤ちゃんの体のつくりや成長の様子を調べることがあります。その中で「形態異常(けいたいいじょう)」と呼ばれる、赤ちゃんの体の一部に通常と少し違う形や発育の仕方が見られることがあります。
形態異常には、心臓、腎臓、消化管、頭部など様々な臓器の形や機能の病気があります。異常が見つかったときには、まず「どのくらい赤ちゃんの生活に影響するのか」を丁寧に調べます。中には軽度で、赤ちゃんの成長や生活に大きな影響を与えないものもあります。一方で、出産後に手術や医療的なサポートが必要になる場合もあります。必要に応じて小児科や小児外科、遺伝カウンセリングの専門チームと連携し、ご家族と一緒に最善の準備をしていきます。妊娠中から赤ちゃんに合った医療体制を整えることで、安心して出産・育児を迎えることができます。胎児精査は、赤ちゃんとご家族が安心して出産・育児を迎えるための大切なステップです。ご不安な点やご質問がありましたら、主治医やスタッフにお気軽にご相談ください。
合併症妊娠について
高血圧、糖尿病、心疾患、膠原病、精神疾患など基礎疾患をお持ちの方の管理を行っております。各診療科と連携を取りながら安心して妊娠出産に臨めるように管理を行います。
妊娠高血圧症候群について
妊娠高血圧症候群とは、妊娠中に血圧が高くなる病気の総称で、以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていました。妊娠20週以降に血圧が上がったり、むくみや尿蛋白が見られたりするのが特徴です。お母さんの体に負担がかかるだけでなく、赤ちゃんに送られる血液や栄養が少なくなるために赤ちゃんの発育がゆっくりになることがあります。場合によっては早めの出産が必要になることもあります。
初めての妊娠、多胎妊娠(双子や三つ子など)、高齢妊娠、肥満や高血圧・糖尿病などを持っている方では起こりやすいといわれています。妊娠高血圧症候群が進行すると、母体に重篤な合併症(子癇、臓器障害、血液凝固異常など)を引き起こすことがあります。また、胎児にも低体重や早産のリスクが高くなります。
診断された場合には、安静や食事の工夫、降圧薬による治療を行いながら、赤ちゃんの発育とお母さんの体調を定期的にチェックします。必要なときには母体と胎児の安全を優先し、適切な時期に分娩を行います。
妊娠高血圧症候群と診断されても、多くのお母さんと赤ちゃんは適切な管理のもとで安全に出産を迎えています。周産期チームが一丸となってサポートし、安心して妊娠生活を送れるようにお手伝いいたします。
糖代謝異常合併妊娠について
糖代謝異常合併妊娠とは、妊娠前または妊娠中に血糖値の異常(糖尿病、妊娠糖尿病、耐糖能異常など)が認められた状態を指します。もともと糖尿病がある方だけでなく、妊娠をきっかけに初めて血糖値が高めになる方もいらっしゃいます。妊娠中はホルモンの影響で血糖が上がりやすくなるため、注意が必要です。
血糖値が高い状態が続くと、赤ちゃんが大きく育ちすぎたり(巨大児)、逆に発育がうまくいかなかったり、また出産後に赤ちゃんが低血糖になることがあります。食事療法や生活習慣の工夫で改善する方も多く、必要な場合にはインスリンを用いた治療を行います。定期的な血糖測定や胎児の発育チェックを行いながら、お母さんと赤ちゃんの健康を守ります。これらの治療は糖尿病内分泌内科と連携しながら行います。
精神疾患をお持ちの方の妊娠・出産について
精神疾患合併妊娠とは、妊娠前あるいは妊娠中に精神疾患(うつ病、双極性障害、統合失調症、神経症性障害、妊娠・産後精神病など)が既に存在する、または妊娠中に新たに発症する状態を指します。妊娠や出産は、心と体に大きな変化をもたらす特別な時期です。精神疾患をお持ちの方にとっては、この変化によって症状が悪化したり、不安が強まったりすることがあります。薬の影響や病気と妊娠の関係について心配される方も少なくありません。妊娠中に服用している薬の安全性については、母体と赤ちゃんの両方にとって最も安全で適切な治療方針を一緒に考えていきます。必要に応じて薬の調整を行い、妊娠経過に合わせた治療を進めます。出産後の育児についても不安を感じる方は多くいらっしゃいますが、助産師や医療ソーシャルワーカーなど多職種が協力し、切れ目のない支援体制を整えています。
鹿児島県内では産科と精神科の併設されている施設は限られており、多くの精神疾患合併妊娠の患者さんが当院で妊娠・出産されています。すでに精神科や心療内科で治療を受けている方は、妊娠を考えた段階から主治医と相談し早めに受診していただくことで、より安心して妊娠・出産に臨むことができます。妊娠や出産に関する不安、薬のこと、育児への心配など、どのようなことでも一人で抱え込まず遠慮なくご相談ください。精神科、小児科、地域の支援機関とも連携し、妊娠中から産後まで一貫したサポートを行っています。
その他
分娩後大量出血
分娩後の大量出血は、出産後に起こることがある重い合併症のひとつです。出産ではある程度の出血は自然なことですが、通常より多く出血が続くと命にかかわる危険があります。原因には、子宮の収縮が不十分なこと(弛緩出血)、胎盤の一部が子宮の中に残ること(胎盤遺残)、産道(会陰、腟、子宮頸管)の裂傷、血が固まりづらくなる状態(血液凝固障害)などがあります。出産直後から医療スタッフが出血の量を丁寧に確認し、異常があればすぐに対応します。まずは子宮の収縮を助ける薬や止血処置を行い、それでも止血が難しい場合には輸血で体の状態を安定させながら、より専門的な治療を行うことがあります。具体的には、カテーテルで子宮の血流を止める「子宮動脈塞栓術(UAE)」や、お腹を開けて直接出血を止める「開腹止血術」などです。
また、当院以外でご出産された方で分娩後に大量の出血を来した場合、当院への搬送を受け入れています。救急部、放射線部、麻酔科、輸血部などの他部署の協力のもと、母体救命のため全力で治療に当たります。
RPOCについて
RPOC (Retained products of conception) とは、分娩、流産後に子宮内に残存した胎盤組織のことで、胎盤遺残や胎盤ポリープと呼称しているものをまとめてRPOCと呼びます。生殖補助医療の普及に伴い、分娩後のRPOCが増加しています。これらは胎盤剥離困難例に続発することが多いです。発症頻度は分娩後1%、流産後1.5-29%と報告され、流産後にRPOCは生じやすいです。通常、出産や流産のあとには子宮が自然に収縮し中の組織は排出されますが、一部が残ってしまうと出血が続いたり、腹痛や発熱の原因になったりすることがあります。診断は超音波検査で行います。
治療は残っている組織の大きさや症状に応じて行います。自然に排出されるのを待つ場合も多く、輸血を要する程の性器出血を来す患者さんは少ないです。その他、エストロゲン・プロゲステロンと呼ばれる女性ホルモンを投与し月経を起こす治療(EP療法)を行ったり、出血や感染のリスクが高い場合には子宮内容除去術や子宮鏡を用いた手術を行ったりする場合があります。
アブリスボ(RSウイルスワクチン)に関するご案内
RSウイルス感染症は、主に秋から冬にかけて流行するウイルス感染症です。乳幼児のほとんどが2歳までに1度は感染するといわれています。せき、鼻水、発熱などのかぜ症状が多くほとんどは自然に治りますが、特に生後6か月以内の赤ちゃんや心臓・肺の病気をもつお子さんでは、呼吸が苦しくなるなど重症化することがあります。治療は症状を和らげる対症療法が中心です。
アブリスボ(ABRYSVO®筋注用)は、妊婦さんに接種することで、出生前から赤ちゃんをRS(呼吸器合胞体)ウイルス感染症から守ることを目的としたワクチンです。母体で産生されたRSウイルスに対する抗体が胎盤を通じて胎児に移行することで、生後6か月までの新生児・乳児における下気道疾患(気管支炎・肺炎など)の発症および重症化を予防します。
妊娠28~36週の接種が母体から胎児への抗体移行が十分となる期間であり、有効性が高い傾向が認められています。
接種方法およびスケジュール
• 接種回数:1回のみ。
• 投与量:0.5 mLを筋肉内注射。
• 推奨接種期間:妊娠28~36週(妊娠24~36週での接種が可能ですが、28週以降が有効性がより高い傾向があります)
安全性と注意点
• 接種後の副反応として、注射部位の痛み・腫れ・発赤、軽度の発熱、倦怠感などが報告されています。多くは軽度〜中等度で数日以内に改善します。
• 重篤な有害事象(アナフィラキシーなど)はまれですが、過去のアレルギー歴など、接種前に医師との確認が必要です。
• 接種後14日以内に出生となった赤ちゃんでは、抗体の移行が十分でない可能性があるため、出生時期との関係を考慮する必要があります。
※ 接種には事前の予約が必要です。接種のご希望がある方や詳しくお聞きになりたい方は外来でお申し付けください。
妊娠と薬外来
妊娠と薬外来は、妊娠中または妊娠を希望される女性が「薬の使用によるお腹の赤ちゃんへの影響」や「授乳中のお薬・治療」について不安や疑問をお持ちの場合に、医師および薬剤師が相談に応じる診療外来です。国立成育医療研究センターが中心となり、厚生労働省の事業として設置された「妊娠と薬情報センター」がその運営母体となっています。
目的
1. 安全・確かな情報提供
服薬に関して、科学的根拠(国内外のデータ)、添付文書、既存の疫学調査等を元に、薬のリスクとベネフィットを総合的に判断・説明します。妊娠中であっても使用が検討される薬剤について、可能な選択肢の情報を提供します。
2. 不安の軽減
「妊娠中に薬を飲んでしまった」「持病で薬を中止したらどうなるか」など、患者さんやご家族が抱える不安を対話形式で確認し、安心して治療の選択ができるよう支援します。
3. エビデンスの蓄積と発信
相談を通じて得られたデータ(薬の使用状況・妊娠転帰等)を収集・解析し、将来の情報提供やガイドライン整備に役立てています。これにより、日本国内での安全性データを増やし、医療の質の向上を図ります。
対象となる方
• 妊娠中、または妊娠を希望される女性
• 授乳中でお薬の影響が心配な方
• 現在かかっている医師のもと薬物治療中で、妊娠が安全かどうかを確認したい方
• 薬を使用していたが、その影響や継続の是非について相談したい方
受診までの流れ
1. Web問診票の提出
妊娠と薬情報センターのWeb問診システムから必要事項を入力・提出していただきます。お薬手帳や服用薬の内容がわかる資料をご準備ください。
2. 予約
問診内容をもとに外来相談日を決定します。予約が必要です。
3. 外来での相談
医師・薬剤師による面談形式の相談です。相談内容や薬剤の種類によって時間が異なりますが、リスクの説明、代替薬の可否、今後のフォローアップなどについて詳しくお話します。
4. 相談後のフォローアップ(必要に応じて)
出産後の転帰情報や児の発育など、ご同意をいただいた方については追跡調査を行うことがあります。将来の相談者・医療関係者への情報提供のために重要な取り組みです。
実施日・費用・予約
外来日 適宜(土日祝は除く)
時 間 10:00~15:00 (相談時間30分以内) 要予約
場 所 鹿児島大学病院 産科婦人科 「妊娠と薬外来」
費 用 5,500円/30分 (自費診療・消費税込み)
詳細はこちらを参照ください gairai_kagoshima_01.pdf
無痛分娩
無痛分娩は分娩時の強い痛みを和らげる方法です。当院では主に硬膜外麻酔を用いて行い、麻酔科医と産科医が連携して実施しています。
詳細はこちらを参照ください perinatal.html


